Number 12
投稿年月日 2016年 1月
題名 特別な日
内容 そもそも「晴れ」とはなにをも ってそういわれるようになったのでしょうか。
投稿者 副園長 邨橋 智樹 

2016年1月号 特別な日

巻頭言

先日、発表会がありました。子どもたちの遊びの中から取り出した劇や合奏を通して 子どもたちの発達を見ることができたのではないかと思います。発表会は子どもたち にとって特別な日です。この特別な日を「晴れの舞台」といいます。この「晴れ」と いう言葉、日本では様々な場面で使われます。では、そもそも「晴れ」とはなにをも ってそういわれるようになったのでしょうか。

 

日本人はもともと、物事は移りゆくものであり無常であるということが言い伝えら れた気がします。平家物語の一節「諸行無常」という言葉にも見えるように、良い時 は戒めとして、悪い時には期待としてその時を受け止めていました。それは時として 暮らしにメリハリをつけ生活の支えともなりました。それが「ケ」と「ハレ」です。 その代表が食事でした。「ケ」の食事が朝餉(アサゲ)・昼餉(ヒルゲ)・夕餉(ユウ ゲ)といった毎日の食事であり、「ハレ」の日の食事は神聖な食べ物である餅や赤飯を 食べたり、お酒を飲んで祝ったりして、特別な日であることを示しました。

 

日本人は古来より様々なものに神が宿っていると感じ「八百万の神」として大切に してきました。そして、日常的に身の回りで起こる良いことも悪いことも、人間の力 ではどうにもならないこととして、神様のおかげ、神様のせいとしました。それは 「ケ」が枯れてしまうことで「ケガレ」として、そのケガレを落とすために人々は祭 り(祀り)をつかさどるようになりました。この祭りの華やかさ、行事の晴れやかさ により、ケガレを落とした後の清々しさが「ハレ」です。そして、その気分が「晴れ 晴れ」した気持ちなのです。毎日が平穏な「ケ」の繰り返しでは、生活にメリハリが なくなり、生活リズムがとりにくくなります。しかし、とはいっても毎日は平穏に進 みますので、人為的に「ハレ」を作り出す必要があります。それが祭り、能狂言、正 月などの行事です。それが年中行事になり、こういった「ハレ」の日には農民も毎日 の農耕を忘れ、思いっきり楽しみました。祭りなどの日本の年中行事はこういった毎 日の「ケ」の中に「ハレ」の要素を取り入れて、人はメリハリをつけることで生活に 張りを与えていたのですね。

 

幼稚園でも様々な行事があります。それは前述にもあるように、生活のメリハリを つけることで、生活リズムをとることにつながるからです。そして、保育所保育指針 や幼稚園教育要領には、生活リズムは情緒の安定にもつながるとあります。そして、 「ハレ」の日を待ち遠しく思いながら「ケ」の毎日を過ごすことで「待つ力」を育む ことにつながっているように感じます。祭りが楽しいだけではなく、育てていた稲が 実を結び、収穫があるからです。それを待ち、祝うということが生活リズムなので す。保育においても、私は過程が大切だと考えています。結果を求めるだけではいけ ないのです。そこには「ケ」という普段があり、「ハレ」の体験につながっているので す。子どもたちが「ケ」と「ハレ」の両方の体験をできることが意味のあることであ り、そのことを子どもたちが実感できるよう保育を考えていきたいと思います。