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日本のいじめの特殊性

副園長のコラムcolumn園からのお知らせcolumn日々考えること

2023年10月の東洋経済のコラムの中で社会政策課題研究所の江崎禎英氏がいじめについてのコラムを書かれていました。現在、文部科学省のいじめや不登校に関する実態調査の結果によると、小・中・高等学校及び特別支援学校で確認されたいじめの件数は昨年度68万1948件となり、前年度比において10.8%増加し、過去最高となりました。江崎氏はこの結果を見て、日本におけるいじめの特殊性があると言っています。

 

国立教育政策研究所の「いじめ追跡調査2016-2018」によると、小4~小6年生と中1~3年生のそれぞれ3年間に「仲間外れ・無視・陰口」といったいじめ被害を7~8割の子どもたちが経験しており、加害においても6~7割の子どもが経験しているという結果が出たそうです。では、いじめられる子どもにはどういった特徴があるのでしょうか。世界的に言われているのは学業の成績との相関関係です。OECDの学習到達度調査では、科学的リテラシーの得点が高くなるほどいじめの被害にある割合は減っていくことが見られています。

 

しかし、日本のいじめの様子を見ると、それだけではなく違った結果も見られてくるようです。それは「他の生徒にからかわれた」と回答した子どもの割合は、科学リテラシーレベルが高くなるほど増えていき、最上位では一番低いグループに比べて8%も高くにあるのです。これは「叩かれたり押されたりした」との回答でも上位層で急増しているようです。つまり、江崎氏が言う日本のいじめの特殊性というのは日本においては「出る杭は打たれる」という構図が見えてくるというのです。また、OECDの調査は、義務教育を終えた直後の15歳の子どもたちを対象にしています。つまり、この年齢で日本の子どもたちはすでに強い「横並び意識」を持ってしまっているというのが分かります。そして、日本においては成績の良し悪しだけではなく、身の回りにあるありとあらゆる要素が「多数派と異なる」ということがいじめの理由になるのです。

 

そして、今の多くの子どもたちは「親や周りからの期待」と「クラスで目立たないようにしなければならない」といった同調圧力のはざまで困っていると江崎氏は言っています。江崎氏はこの結果を受けて、子どもたちの「皆と同じであるべき」といった無意識の思いこみから解放するために異年齢学級の導入が有用な方法であると述べています。そこで江崎氏が言う異年齢学級の目的は「みんなと同じ」といった均質性とは正反対の「差異」や「異質性」を集団内に求めることが目的となり、教え合い、学び合う中で、年上は年下に模範を示そうといった自覚が生まれます。と言っています。そして、子どもたちの「生きる力」や「学ぶ力」を引き出すためには先生は一方的に「教える」立場のティーチャーから、子どもたちの学びを「支え見守る」コーチャー(コーチする)へと変わることは必要だと言っています。こういったことを実現している小学校ではいじめが減り、結果的に成績もアップしたと江崎氏は紹介していました。

 

今、たちばな幼稚園では藤森メソッド(見守る保育)の保育形態を進めています。その中で大きな軸の一つが異年齢保育です。これはいじめの減少を考慮ものではなく、子どもたちそれぞれの発達に沿った保育を進めていくために必要な保育の考えであり形態であると思っています。そのため、私の考えでは「異年齢」というのは何も「年齢」に限ったことではなく、「年齢」を踏まえた「発達の多様性を保障する」ということであると解釈しています。そして、その場にいる子どもたちが自分の発達に合った環境(物的・人的含め)が最善の利益となるのだろうと思っています。そして、結果としていじめが無くなっていくのではないかと思っています。また、これからのよりグローバルになっていく時代において「多様性」というのは非常に重要なキーワードとなってきます。その時に今の日本のいじめのような「異質性を嫌い」「出る杭はうたれ」「同調圧力」という意識は社会に出たときにデメリットに働くように思います。また、江崎氏の紹介した学校では教え合い、学び合うことで成績がアップしたと言っています。アメリカ研究機関が発表したラーニングピラミッドにおいても、学習定着率が一番高いのは他の人に教えるということでした。

 

江崎氏は最後に「『同じ学年の子どもは皆、同程度の能力を持っている』というフィクションと教師個人の努力への依存から脱却し、未来を担う子どもたちに十分な投資を行ってはどうだろう」と言っています。そのためには、子どもの自己学習能力を信じる大人の子ども観を変える必要があるのかもしれませんね。