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投稿年月日 | 2017年8月1日 |
題名 | ほったらかし? |
内容 | 子どもをめぐる環境の変化に対して、もう一度、地域の養育力は取り戻す必要があります。 |
投稿者 | 副園長 邨橋 智樹 |
最近、外で遊んでいる子どもたちの姿を見なくなっているという話を聞くことがよ くあります。
確かに公園に行っても、走り回っている子どもたちを見ることが少なく なっているのを感じます。ゲーム機や室内で遊ぶおもちゃの充実だけではなく、外で 遊ぶことができる環境が公園や学校しかなく、その数も限られ地域の中で遊ぶことが できる環境が少なくなっています。
また、こういった話もあります。よく「最近は物騒になって外で子どもたちが遊ばせることができなくなった」という声も聴きます。 しかし、考えてみると不審者の数や犯罪の数は圧倒的に昔のほうが多く、青少年犯罪 にしても戦後よりはずいぶんと少なくなっています。
また、情報がいきわたるように なったおかげで、知りえない地域の事件まで知ることができます。そのため、多いように感じますが、決してそうではないのです。ただ、交通事故が増えたことと、地域 でお互いに見合う関係が少なくなってきていることは事実です。
このような子どもをめぐる環境の変化に対して、もう一度、地域の養育力は取り戻す必要があります。そして、前回の巻頭言にも書いたように「子どもは大人から監視されることなく、しかし、大人たちから温かく見守られている目を感じながら、自分たちで工夫し、異年齢で自由に遊ぶことが必要」といった環境を用意する必要があり ます。
上記のこの言葉は安藤忠雄さんが執筆した「建築家」の抜粋の中の「子どものため の建築」というテーマの部分にあります。
また、安藤忠雄さんは「子どもを”過保護 の世界に閉じ込める過程と社会のシステムが、子どもの自立を阻んでいる。そんな考えでいるから、『ほっといておいても子どもは育つ』などと言って、周囲の反感を買うこともある。子どものための施設を設計するときも、人間本来の生命力を期待し、子どもだから遠慮せず、いつも通りにつくるから、発注者側と衝突することも多い」とも言っています。
幼稚園でも環境の作り方はとても重要です。心配する親の思いと、子どもの自立と の調和はなかなか難しいです。
安藤氏は子どものための施設の計画で、こんな空間を提案しています。「ほったらかしの場所を作る:テーマは自然との対話である。それと これが一番重要なのだが、すべて設計しつくすのではなく、あえて目的のない、ほったらかしの場所を作ることだ。人間が生きていくには、知識と知恵がいる。すでにある問題と答えを結びつける、知識を身につける授業と、世界を自分の目で見て、問題そのものを探していける知恵を育む自由な時間、その両方があってこその教育だろう」
本当の意味での「ほったらかし」は、安藤さんも言っていますが、誤解を招きそうです。それはただ、子どもを「放っておく」のではなく、子どもが主体的に生活し、 自発的に遊びこめるような空間の用意が重要で、しかも、それができるような用意をすべて整えるのではなく、子ども自ら生み出していくような余地も残しつつ配慮をした環境です。
そして、それが自発的思考能力の獲得につながっていくのです。子ども たちの環境において、今の時代は過保護な環境が多いのかもしれません。子どもたち の「主体性」のとらえ方をもう一度考える。そんな時代が今なのかもしれません。
2017年8月1日