Number 9
投稿年月日 2015年10月
題名 散歩
内容 散歩といえば、 「学問のすすめ」を書いた福沢諭吉は「中津留別之書」の中でこんなことを 書いていました。
投稿者 副園長 邨橋 智樹 

2015年10月号 散歩

巻頭言

暑い夏が一段落し、朝夕は肌寒いくらいの季節になってきました。今までプールや水遊びを していたつくし組の子どもたちも、園庭や散歩に出て、遊びに行くことがまた増えてきます。 特に散歩では、その道中で、いろんなものに出会うことがあります。散歩に来ている地域の 子どもたち、散歩している犬、地域の人、出会いや関わりの中で地域とのつながりができる のも、散歩をしているとよくあります。

 

散歩といえば、 「学問のすすめ」を書いた福沢諭吉は「中津留別之書」の中でこんなことを 書いていました。 「すべての始まりは「身体」にあり、健康を保ってこその、一家であり、一 国である。 」という「一人一人が丈夫な身体を作り、懸命に勉強して「独立」することが、世 の中の出発点である」と言っていたそうで、その健康のために運動は欠かせなかったそうで す。その中心として行っていたのが「散歩」です。そして、彼が創設した慶応の塾生と散歩 党という同好会を作り、散歩にいくことを日課にしていたそうです。確かに散歩に行くこと は歩くことが中心なので健康のためにもいいことはわかりますね。その体作りこそが世の中 に出ることの出発点であると捉えています。最近の子どもたちは体が大きいのに運動量は低 いといわれています。今では家の中で遊ぶことが多くなり、昔に比べるとますます外で遊ぶ 機会が減ってきています。そのため、散歩に出る機会というのは確かに体を使います。日頃 から散歩に行くことで気づくのは子どもたちがどれだけ体力がついてきたかを実感できる場 でもあるということです。

 

もう一人、散歩を積極的にしていた人がいました。それが西洋の哲学者アリストテレスで す。彼の場合は、その動機が福沢諭吉とは違い、散歩をすることは健康のためではなく、発想することに適していると知っていたそうです。というのも、最近の脳科学では下半身の運 動は、脳の前頭葉を活発にし、考える力や想像力などが強化され、認知症の予防になること も分かってきています。古代ギリシャの人々は朝食・昼食・夕食・就寝前に歩くことが習慣 としてあったのですが、アリストテレスの場合は晩年に作った学校で歩いて授業をしていた そうです。散歩は健康にいいだけでなく、脳を活性化し、また歩きながらの会話は新しいア イデアを生みその内容が漏れる心配もないというわけですね。

 

つくし組の子どもたちは友だちと手をつないで散歩に出かけます。見ているとわかるので すが、 「手をつなぐ」ということは当然自分の歩調だけではなく、友だちの動きも含めた上で 歩かなければいけません。人と「合わせる」ということも子どもたちは学んでいます。また、 その道中では手をつないだ子とコミュニケーションも増えてきます。道中の花を見ては立ち 止まって、一緒に見たりすることもあります。散歩はなにも公園に行くことが目的ではあり ません。つい目的地に着くことが目標になってしまいますが、その道中にも発見があります。 その過程も含めて散歩なのです。