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先日、石川県に我々が今進めている見守る保育(藤森メソッド)の全国実践研究会があり、幼稚園の職員と参加してきました。様々な幼稚園や保育園が実践している事例をもとに報告しあう研究大会なのですが、その基調講演で雄谷良成さんが講演をされました。このかたは社会福祉法人 佛子園の理事長であり、金沢大学を卒業後、青年海外協力隊に障害福祉指導者育成のため参加され、その後北國新聞社、金城大学の非常勤講師を経て、現在の社会福祉法人になられたそうです。
この佛子園はそもそも知的障害者施設として法人として始まったのですが、ユニークなのは「ごちゃまぜ」といったコンセプトで作る街づくりです。このごちゃまぜというコンセプトがどういった意味を持つかというと「高齢者も若者も子どもも障害のあるなしにかかわらず“ごちゃまぜ”で暮らせる街」ということを目的としています。そして、もともとあった知的障害者施設の児童入所施設だけではなく、「地域の人たちも集える場所にしたい。子どもたちの生活を見守り支えてくれる担い手となる人たちに一緒に住んでもらいたい」という思いから様々な施設を作っていきます。学生向け住宅やサービス付き高齢者向け住宅、それらの共同売店など様々です。また、こういった施設にはフェンスもなく、知的障害を持った子どもたちは様々なところに自由に出入りします。
面白いのはこういった制限がなく、様々なところに行ってもいい環境の中で、様々なことが起きたことです。まず、知的障害を持つ子どもたちの問題行動が無くなったということです。そのほかにも首が2度くらいしか曲がらず2年にわたり療育しても改善しなかった重度心身症の利用者のかたが、認知症のおばあちゃんが差し出すゼリーを食べるために90度以上曲がるようになったり、その認知症のおばあちゃんはゼリーを食べる利用者にかかわるために、元気になったりといったことがあったそうです。全員にとっていい作用がこの環境において起きたそうです。
この話を聞いたときに、「療育」というものは「こなす」ことではなく、「やりたいもの」である必要があるということに改めて感じました。そして、その環境が居心地がよかったり、楽しかったりしなければ本当の意味で改善にはつながらなかったのだろうと思います。誰にとっても居心地のいい場所、だれも排除しない場所を作りたいと始めたごちゃまぜをコンセプトにして雄谷さん講演の最後に「福祉は利用者の人と向き合いますが、地域の人たちは利用者の方と同じ方向を向いている。これが福祉の限界なのだろう」と言っていました。
ここでの講演は知的障害者施設や高齢者施設をもとにした「Share 金沢」の地域づくりの話でしたが、こういった多様性のある環境というのは幼稚園や保育園といった乳幼児保育にとっても非常に参考になる話でした。というのも、これまで乳幼児施設は「子どもたちを預かって自由に遊ぶ」ということがいまだ多いです。しかし、最近はこの「自由に遊ぶ」ということが子どもたちの脳の発達にとって非常に重要だということがわかってきたのです。そして、子どもたちが生きる環境において、特定の大人と関わることの重要性よりも社会で生きる必要性というものがこのコロナを機により浮き彫りになってきたように思います。先ほどの療育の事例のように大人がいくら「やれやれ」とやらせた活動においても、その子どもが「やりたい」と思わなければ、何も起きないどころかかえって嫌いになってしまうこともあります。
意欲の持てる環境というものは居心地がよくてはじめ起きるということを改めて感じました。そして、それぞれの個人を尊重した関わりというものがこれほどまで障害の改善につながる、保育に置き換えると子どもの発達につながるということを思います。こういったことを受けて今のたちばな幼稚園でどうフィードバックしていくか、刺激になった講演でした。
【健康長寿ネット】引用
https://www.tyojyu.or.jp/net/kaigo-seido/jirei/gochamazedekuraserumachi.html
2023年8月29日