Number 39
投稿年月日 2018年8月20日
題名 愛着と共感
内容 愛着と共感は密接に関係しているのですね。そして、幼いころから共感してもらう経験が後の子どもに大きく影響してくるのです。
投稿者 副園長 邨橋 智樹

2018年8月号 愛着と共感

巻頭言

先日、東京に研修に行ってきました。その帰り新幹線の中で話題に出てきたのが、今年の6月9日午後10時前、東海道新幹線新横浜―小田原間を走行中の東京発新大阪行き「のぞみ265号」の車内で、男がオノのようなもので複数の乗客を襲った、東海道新幹線での驚愕の無差別殺人事件のことです。その事件での犯人の供述は「むしゃくしゃしていた。誰でもよかった」でした。この事件において、犯人と親との関りも注目を浴び、印象に起こっています。新幹線内の話の中では、「こういった状況に遭遇したときにどうします?」と聞かれたのですが、私はそれよりも「最近こういった事件が多いことのほうが気になりますし、そうならないようにどういった関わりが保育に必要なのかを考える」と答えました。こういった事件をはじめ、最近では自分の「衝動」が抑えられないことや相手に「共感」することができないような様子が見える事件が増えてきているように思います。

 

「共感」とは相手の立場にたち、相手の痛みを自分の痛みと感じられてこそ、相手の一言からだけではなく、その言葉の後ろにある気持ちを感じることができる力だと言います。精神科医の岡田尊司氏は、「愛着障害」の中で「愛着障害の人は、相手の気持ちに対する共感性が未発達な傾向を示す。相手の立場に立って、相手のことを思いやるということが苦手になりやすいのである。それは幼いころに、共感をもって接してもらうことが不足していたことと関係しているだろう」と言っています。愛着と共感は密接に関係しているのですね。そして、幼いころから共感してもらう経験が後の子どもに大きく影響してくるのです。

 

しかし、乳児の子どもたちを見ていると遊んでいるときに共感している姿は見られます。共感することで模倣が生まれていきます。そんな関係を「愛着」というのかということです。人との関係において様々な問題行動があり、それらの原因を岡田氏は愛着障害の特徴としていますが、愛着を乳幼児の母子における関りに限定せず、他者との信頼関係や自分を見守ってくれる存在が確認できずに、他者への疑惑だけを持つ中で、他者との関係をうまく結べないことを「愛着障害」というのであれば、乳児の共感する様子などの行動は納得がいきます。

 

例えば「愛着障害の人の重要な特徴の一つは、過度に意地を張ってしまうことである。自分流儀に固執したり、否定されればされるほど同じことをしようとしたりする。安定した愛着スタイルの人は相手とやり取りする中で、相手の気持ちも考えて、譲歩したり、気持ちを切り替えたりするということを学んでいる。そんな柔軟性は、安心できる愛着という柔らかな環境があって初めて発達する能力なのです。」

 

このことは親と子どもだけではなく、幼稚園の環境において年齢別のかかわりをしている子どもの様子によく見えます。特に指示する子どもよりも、うまく共感する子どものほうがよりよく関係を結びながら行動します。家庭においても、幼稚園においても子どもたちが安心する環境を作ることが子どもたちにとって大切なのですね。

邨橋 智樹