Number 18
投稿年月日 2016年7月7日
題名 選択する
内容 今、幼稚園では活動を選択するということを行っています。
投稿者 副園長 邨橋 智樹 

2016年7月号 選択する

巻頭言

今、幼稚園では活動を選択するということを行っています。それは子どもたちが自分でやる ことを選択することで責任をもって活動することや自分で見通しをもって活動するというこ とをねらいにおいて行っています。

 

最近ではこの「選択する」ということが「人の人生を豊かにするため」に必要だということ が言われています。その一つがエール大学のエレン氏とジュディ氏の研究です。彼らは老人 ホームの人々を対象に「日常生活にどれほどの責任を持たせるかによって、老人たちはどの ような変化が起き得るか」を調べました。

 

この研究は従来なかった待遇を与えられ、それを自分たちの裁量でコントロールできるグル ープとそれをコントロールすることができないグループとを一年半後に様々な尺度で比べて みました。すると、選択とコントロール権を与えられた人々の方がもう一方のグループより も亡くなった人は少なかったそうです。この事実は、選択とコントロールが命を救い、活動 を選択できないことや自分でコントロールできない無力さが死を招くことを強く示唆してい るのです。

 

では、なぜ自己の選択とコントロールが保障されることでより人生を活動的に、幸せに暮ら すことができるのでしょうか?それは自己の選択やコントロールが自分でできることで「自 己効力感」を持てるからなのです。この「自己効力感」は心理学者アルバート・バンデュー ラによって提唱された言葉で、「自己に対する信頼感や有能感」のことをいいます。人があ る行動を起こそうとするとき、その行動を自分がどの程度うまく行えそうか、という予測の 程度によって、その後の行動を実行するかどうかが左右されることになるのかと考えたので す。

 

つまり、 「自分にはここまでできる」という思いが行動を引き起こすのであり、その思いの ことをバンデューラは「自己効力感」と呼んだのです。それは様々なことにうまく対処でき ているという感覚で、その感覚の高い人は「よし、やってみよう」と思うことができ、その 後の行動につながっていきます。それとは逆に「それは自分にはできないかもしれない」と 考えると、やることに消極的になり、その後の行動にはつながらないことになります。学習 を成功させるにはこの「自己効力感」が必要になってきます。

 

どうすれば、このような感覚をもつことができるかというと、自分にとって好ましい経験を すると、自分の身の回りで起きることがある程度、自分でコントロールすることができると いう信念が生まれます。それが自己効力感を発達させていきます。そして、自分をどう捉 え、自分は学習者として何ができると考えることは、注意を集中させる能力や計画的に考え る能力に影響すると言われています。

 

自分で選択する、自分をコントロールするということはこの自己効力感に大きく影響しま す。そして、その先の学習や生涯における生きる力につながっています。子どもたちが社会 に出るときにこういった力をたくさん発達させて、活躍できるように保育を進めていきたい と思います。