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回想 ~ドイツの園庭を思い出して~

副園長のコラムcolumn日々考えること

まだ5月だというのに「夏日」という言葉を朝のお天気予報で聞くようになってきましたね。幼稚園の園庭の木々もだんだんと緑が多くなってきました。梅雨が過ぎ、夏本番に向けて、寒い冬や秋を越えて、木々や草花も生命力をいかんなく発揮しています。園庭内にあるビオトープを見ると今日はトンボが飛んでいました。数年前にビオトープや築山を園庭に作りましたが、それによって様々な生き物を幼稚園で見ることも出てきました。毎年驚くのが、最近見なかったイトトンボを見たり、知らずどこから来たのか梅雨になるとカエルの鳴き声が聞こえたりといろいろな景色を見せてくれます。

 

このビオトープや築山、最近では様々な幼稚園や保育園でも園庭に作られることが多くなってきました。ビオトープは割と「ため池」を指して言われることが日本では多いですが、本来その地域にすむさまざまな野生生物が生息することができる空間のことで、「生物の生息空間」と訳されます。ギリシャ語で「生物」を意味する「bios」と「場所」を意味する「topos」の合成語でドイツの動物地理学者であるフリードリヒ・ダールが造った言葉だそうです。実際、2011年にドイツの幼児施設の園庭環境を見せてもらったのですが、そこでもビオトープが作られていました。日本とは違いかなり大きなものでした。そこでもやはりビオトープを作る意図は「様々な動植物や生き物に触れるために作られている」と話しています。冒頭で話したトンボを見ても、やはりこういった水場というものは様々な動物の生態を守る場としても、教育的な意図があることが分かります。

 

もう一つ、ドイツの環境で印象的だったのが、日本とは違い、「不安定な場所」の多さでした。かなり角の立った岩場やごつごつした石場等、日本では危ないだろうなと思う環境が多々ありました。このことに対して日本の見学者は「こういった不安定な環境は危なくないですか?」と聞いてみると「危険と思うからこそ、子どもたちが慎重に行動し危機管理能力が育つのです」との答えでした。この環境を見たときにそうは言っても危ないなとも思いましたが、その反面、日本の子どもを取り囲む環境というのは過保護になっているのかもしれないとも思いました。必ずしも、子どもたちが怪我しないように危ないものを遠ざけてしまうことが良いということではないという思いはドイツの環境を見て思うようになりました。

 

他にはドイツでは様々な足場が園庭環境におかれており、拳大の石が転がされている場所であったり、ウッドチップが広げられている場所、煉瓦敷きの場所などがありました。その時の説明では「あえて、足元が不安定な場所を作っている。ドイツはアスファルトや舗装された道が多くあるので、こういった場所を作ることで足首を使って、バランス感覚を養うようにしている」と言っていました。体幹やバランス感覚というものはドイツの環境作りにはよく出てくるワードでした。日本では運動というと、競技や巧技台やマットなどの器具を使った活動を思い浮かべますが、ドイツでは遊びの中で子どもたちが活動的に動くことで体幹が鍛えられるため、そこにも運動があるという捉え方をしていました。「体幹を鍛えれば、どんな競技にも生かすことができる。」というこの言葉は遊びの中での運動遊びの捉え方が「活動を考える」ことから「遊ぶ環境を考える」という視点を持たせてもらえる経験でした。

 

私は保育の中での教育のあり方は「遊んでいたら自然と学んでいる。身についている」というのが一つの理想であると思っています。そのためには、活動で得た知識を定着するためや発展できるように、自由に遊ぶことが必要であると思っていますし、そのための環境作り・空間づくりが非常に重要であると思っています。そんなことをビオトープに止まっているトンボを見て、ドイツの園庭環境を思い出して考えていました。